こんにちは、橘です。
いきなりの私事で恐縮ですが、ぼくはジムのお手伝いをする以外に、ライターとしての顔も持ち合わせています(というより、ジムのお手伝いもするライターというのがぼくの正体です)。
仕事柄、語彙力の向上や雑学の収集を心がけており、そのための1つの手段としてインターネットが誇る”集合知”の殿堂”Wikipedia”を愛読しています。
その日もいつもどおり、好奇心の赴くままに知識の海原でサーフィンを楽しんでおりました。
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・・・・・・
・・・・・・・・・・。
そして、ぼくは思いました。
こんなふうに思うのはぼくだけではないはずです。
この記事に辿り着いたということは、おそらくはあなたも一度はこんなふうに思ったことがあるのではないでしょうか。
実際、「クライミング」と名のつくものだけをさっと挙げてみても……
フリークライミング。
ロッククライミング。
アイスクライミング。
スポーツクライミング。
アルパインクライミング。
…………
というふうに、じつに様々な”クライミング”が存在します。
これらの用語とそれが意味するところの概念を、きちんと整理して説明できる人がいったいどれほど存在するでしょうか。
このブログはボルダリングジムが運営しておりますが、「ボルダリング」なんて「クライミング」という単語を含んですらいないのに、れっきとしたクライミングの一種です。
ボル猿くんが困惑するのも無理はありません。
人間だってこうなります。
しかしながら、ぼくも今やジムの運営に携わる人間の1人です。
クライミング業界の端くれとしては、これくらいの用語はきちんと整理して一般教養として理解しておかなければなりません。
そこで今回は。
”猿でもわかる!
クライミング大辞典!!”
これを制作してまいります!
クライミング界の地図
さっそくですが、今回は
クライミング界の概念地図
というものを制作しましたので、まずはそれをご覧にいれます!
それがこちらです!
いかがでしょう。
「レイアウトのセンスがない」とか。
「ごちゃごちゃしていて見づらい」とか。
「クライミングを全然わかってない」とか。
いろいろとご不満はあるかもしれません。
しかしながら。
それなりに苦労してまとめたので、まずはいったん褒めていただけるとうれしいです。
冗談はさておき(半分は本音……)
たしかに、これほど込み入った図解をぽんっとお見せしただけでは、いまひとつピンと来ないと思います。
そこで、ここからはこの地図が完成するまでのプロセスをはじめから順を追ってご覧にいれます。
なにをどう考えてこのように整理されたのかを知っていただくと同時に、個々のクライミングの定義について他の概念との区別に重点を置いてご説明してまいります。
それでは、始めていきたいと思います!
”目的”による分類
最初に、”クライミング”という言葉の定義を辞書で確認してみましょう。
1 手足を使ってよじ登ること。クライム。また、登山。登攀。
2 ロッククライミングをはじめ、アイスクライミング・フリークライミング・スポーツクライミングなどのこと
出典:コトバンク/デジタル大辞泉(2022年3月30日時点)
はい。
案の定ふわっとしています。
なにかの定義を正確に知りたいと思っている人間にとっては、「などのこと」っていう表現ほど頼りないものはありません。
とはいえ、大事なことがわかりました。
クライミングには”登山”も含まれる!
みたいです(デジタル大辞泉いわくですが)
そこで、このあともいろいろと調べていったうえで、クライミングという概念を整理するためには、まずは次のように目的別に3種類に大別することが有効であるという結論に至りました。
ということで、まずはこの概念地図の3つの大枠部分について見ていきましょう。
登山
目的は”山”の登頂です。
山のある地点からスタートして、特定の山頂を目指します。
途中に岩壁や氷壁があるとしても、それはある種の障害物でしかなく、克服すべき難所の一つでしかありません。
目指すのはあくまで”山”の頂であり、”壁”の完登は手段にすぎません。
狭義のクライミング
目的は”壁”の登破です。
したがって、道中の登山は手段でしかなく、目的は山中にある特定の岩や岩壁、氷壁などの登攀にあります。
”登山”ではあくまで障害物の1つでしかなかった岩壁や氷壁が、”狭義のクライミング”においては目的物となります。
すなわち、「登山」と「狭義のクライミング」とは手段と目的が入れ替わった関係にあると言えるのです。
スポーツクライミング
目的は他人と競い合うことです。
そのために厳格なルールが設定され、完登数やトライ数という客観的な数値によって成績を測定することになります。
壁の完登を目的に含むことから、これは狭義のクライミングに属すると考えられます。
しかしながら、そこにゲーム性・競技性が入ってくることでスポーツクライミングが成立します。
もっとも、他人と競い合うという目的のうえに、「自分を超える」というより大きな目標や本質的な理念が存在するのですが、いずれにせよ、競技性を有するという点でほかのクライミングとは差別化されています。
これで3種類に大別できました!
続いては、この中身を細分化していきましょう!
”登る対象”による分類
さて、一口に”山”や”壁”と言っても、その実体は多種多様です。
壁のように峻厳な山もあれば、丘に近いなだからな山もあります。
壁にしたって、岩壁もあれば人工壁だって存在します。
そこで、こうした多様性を踏まえて、概念地図をさらに細分化すると、こうなります!
少しにぎやかになってきましたね。
それでは、1つずつ見ていきましょう!
ロッククライミング
これは非常にわかりやすく、岩や岩壁を登ることですね。
Rockを対象に Climbing なので、そのまんまです。
実際、著名な百科事典ではこんなふうに説明されています。
岩登りのこと。(中略)もともとは山頂に至る過程で困難な岩場を克服するための技術だったが、1920年代頃から岩壁や岩峰そのものを目的とするスポーツとして、広義の登山から独立した行為を指すようになった。
出典:コトバンク/ブリタニカ国際大百科事典(2022年3月30日現在)
「岩壁や岩峰そのものを目的とする」とか「広義の登山から独立した行為」という説明があることからも、山頂を目指すことを目的とした登山の一種ではなく、あくまで岩肌を登る行為それ自体を指していることがわかります。
つまり、ロッククライミングは登山(”山頂”を目指す行為)における手段にもなり得ますし、それ自体が目的にもなると考えて良いでしょう!
アイスクライミング
これも文字どおり、氷を登ることですね。
ただし、一口に氷といっても多様で、氷山や氷壁、さらには氷瀑(凍った滝)などを登ることを指します。
ロッククライミングと同様の事情から、これも”登山”と”狭義のクライミング”の両方にまたがった概念だと認識しておくと良いでしょう。
登頂を目指す場合にわざわざ氷瀑の登攀を試みることは滅多にないでしょうが、アルピニズム(あえて困難な登山を試みる求道者精神)にのっとれば、ありえないとも言い切れません。
沢登り
名前のまんまシリーズのトリを務めるのがこれ。
沢を登るから”沢登り”です。
とはいえ、ぼくもそうだったんですが、「沢」って言われても正確にはどんな地形を指すのかイマイチわからないという方もいらっしゃると思います。
というわけで、「沢」の定義を確認しましょう。
山間の谷。また、そこを流れる水。渓流。谷川。
出典:コトバンク/精選版 日本国語大辞典(2022年3月30日時点)
だそうです。
「”沢”を登る」という行為自体を指すことから、やはり手段にも目的にもなりえます。
どんどん上へ上へと登っていくという感じではないので、「クライミング」と呼ぶことには違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、びしょびしょになりながらめっちゃヌメるスラブ壁※に挑むことだと想像していただければ、ボルダリングをやっている方ならおおよそご納得いただけるのではないでしょうか。(※ボルダリングにおいて傾斜90度未満の壁をこう呼びます)
インドアクライミング
これについてはややオリジナルな定義を主張させてください。
名前のとおりに解釈するなら「室内の壁を登ること」なのですが、実際のところ、対象が室内にあるかどうかは重要ではありません。
その本質は「人工壁を登ること」です。
なので、それが屋外にあろうと屋内にあろうと、登攀の対象が天然の構造物でないならば「インドアクライミング」と認識してしまって良いと思います。
もっとも、下の画像のような本物さながらのガチめな人工岩を登る行為を「インドアクライミング」と称することにはかなり抵抗があります。
こういうときは、あとで確認する「ボルダリング」という言葉を代用してお茶を濁すことにしましょう。
「インドアクライミング」なんてあまり聞き慣れない言葉ですが、このあと確認する「アルパインクライミング」と区別するうえで重要な概念になってきます。
なお、これに関しては、登山(山頂を目指す行為)の途中に手段として行なわれる可能性はほぼ皆無のため、「狭義のクライミング」にだけ属するものと考えられます。
アルパインクライミング
さて。
これが非常に難題です。
この概念の整理が今回の一番の山場でした(シャレです)
まずはその定義を”偉大なる集合知”に尋ねてみましょう。
急峻な山岳環境における移動をともなう身体活動。
さまざまなやり方のものを含めて指す用語であり、たとえばロッククライミング・アイスクライミング・登山・山岳トラベルなどを指しうる。
(中略)
つまり、競技化したりするなどということはせず本物の山岳の急峻な場所をよじ登ることをまとめてアルパインクライミングと呼んでいるのである。
一般的には山頂をめざして登ることや、ひとつの岩壁を登り切ることなどを目指して行なわれている。
Wikipedia(2022年3月30日現在)
・・・・・・・なるほど。
ということは。
Wikipediaの定義に従って、アルパインクライミングを概念地図上に位置づけるとしたら、こうなります。
大きい……。
さすがアルパインクライミング。
”Alpine(ヒマラヤの)”という言葉のとおり、じつに雄大な意味の広がりを備えた概念です。
競技化されておらず、山岳にまつわる自然の構造物を登るのであれば、それがなんであれすべてアルパインクライミングというわけです。
氷あり。
沢あり。
岩壁ありの。
なんでもあり。
つまり。
クライミング界の総合格闘技だということですね!(ただし、戦う相手は人ではなく”自然”)
しかしながら。
現実的な言葉の使われ方を考えると、この定義はいくらなんでも広すぎるのではないかと思います。
たとえばなんですが・・・。
それが総合格闘技の試合だったとしても、柔道出身の選手同士が寝技をかけあうようなら、それはもはや柔道であり、その光景を「総合格闘技」とは呼ばないと思います。
これと同様に。
たとえアルパインクライミングの一種であっても、岩壁の完登を目指すならそれは「ロッククライミング」と呼ぶのがふつうだし、氷壁を登ることで完結するなら「アイスクライミング」と認識するのが自然だと思われます。
こうした事情を踏まえて。
現実的に呼ばれているところの、つまりは「狭義のアルパインクライミング」はどのように位置づけられるのかを考える必要があります。
そこで、こんな感じでどうでしょうか。
このように、現実的に「アルパインクライミング」と呼ばれている活動はあくまで登山(”山頂”を目指すもの)です。
しかしながら、ハイキングやトレッキングなどの歩行だけで完結する登山とは異なり、急峻な箇所での登攀、つまりは岩登り(ロッククライミング)が含まれます。
つまり、「山頂を目指して、ロッククライミング(岩登り)が必要になるようなルートを登る行為」が、現実的に呼ばれるところの「アルパインクライミング」であると言えます。
スピードクライミング
文字どおり、登るスピード(完登までのタイム)を競うものです。
他人と競うという競技性を備えるので、スポーツクライミングに含まれます。
「登る対象」という観点から次の特徴を備えます。
- 人工壁を登ること
- 規格が定まっていること
つまり、ほかのクライミングとは異なり、ルートの多様性は存在せず、ルートが統一された人工壁を登るのがこのスピードクライミングです。
”スタイル”による分類
さて、「アルパインクライミングの位置づけ」という核心部(難題)も乗り越え、”クライミング界の概念地図の制作”もまもなく登頂を迎えようとしています。
認識するべき最後の違いは「登り方」です!
登るときの装備の違いとも言えます。
装備の違いによって、クライミング中にできること・できないことがはっきりします。それによって、異なるジャンルが成立しているのです。
なお、ここからは壁の登攀を目的とする「狭義のクライミング」に話を限定します!
さらに。
「ロッククライミング(対象が”岩”)」と「インドアクライミング(対象が”人工壁”)」に話題を絞ることをお許しください。
装備の違いという観点からすれば、登山全般やアイスクライミング・沢登りなどにおいても考えることができるのですが、調べてみたところ、今から見ていく”スタイルの違い”は上記のようなシーンにおいてのみ区別するのが一般的なようですので、そのようにさせていただきます。
諸説・異論あるかと思いますが、話を複雑にしすぎないための工夫ですので、どうかご容赦ください!
”フリー”と”エイド”
最初に”フリークライミング”と”エイドクライミング”を区別するところから始めましょう。
まずはフリークライミングについて確認します。
岩登りの内、安全のために確保用具は使用するが、それに頼ることをせず、自己の技術と体力で岩を登るものを指す。(中略)
人為的・人工的な支点に手足をかけたり、アブミなどの道具をそれに取り付けて、登る際に人工的支点に直接体重をかけて使用する人工登攀と対比される。
出典:Wikipedia(2022年3月30日現在)
ほとんど同様の定義が、「ブリタニカ国際大百科事典」でもされています。
山の頂上を目指すいわゆる登山の要素・手段としての岩登りを、目的や楽しみとして独立させたロッククライミングのうち、鐙(あぶみ)やロープ、はしごなどの道具(安全対策のための命綱を除く)を使わずに登攀するもの。
出典:コトバンク/ブリタニカ国際大百科事典(2022年3月30日現在)
どちらの定義でもポイントになっているのは、安全確保の用途以外では道具を使用しないという点ですね。
それでは。
エイドクライミング(人工登攀)とはなんでしょうか。
すでにWikipediaの引用文内で言及されていましたが、その定義はこうなっています。
足場や手がかりの少ない岩壁を、ハンマー・ハーケン・カラビナ・埋め込みボルト・あぶみなどの人工的な手段を用いて登攀する方法。
出典:コトバンク/ブリタニカ国際大百科事典(2022年3月30日現在)
以上のことから、ざっくり言えば。
フリークライミング
→天然の足場・持ち手のみを活用
エイドクライミング
→ 人工的な足場・持ち手を使う
というふうに認識することができます。
リードとボルダリング
続いてはフリークライミングの中身を細分化していきましょう。
そのために重要なのは「確保」という用語の理解です。
クライミングにおける「確保」とは次のように定義されています。
登山者がロープを使って自分や仲間の転落や滑落を防止すること。ビレー。ジッヘル。
出典:コトバンク/デジタル大辞泉(2022年3月30日現在)
さて。
これを踏まえて結論を端的にお伝えすると。
リードクライミングは「確保」を行います!
ボルダリングは「確保」を行いません!
つまり。
フリークライミングは、確保の有無によって”リード”と”ボルダリング”に分類されることになるのです。
よって。
必然的にボルダリングは滑落しても命に別状がないほどの低い高度を対象として行なわれることになります。
必要となる装備も知識も最小限なので、気軽に始められるアクティビティとして人気となっております。
一方で。
その性質上、リードクライミングはより高い壁を登攀することになります。
うっかりすると死んでしまうので、しっかりとした事前準備と予備知識が必要になります。
トップロープクライミング
これはリードクライミングの派生として捉えることができます。
”リード”では、このようなヌンチャクにロープ(命綱)をかけながら登ることになります。
これに対して、トップロープはあらかじめ終了点(登攀の目標地点)からロープを垂らしておきます。
終了点から下ろした命綱に身を預けて登るので、”トップロープ”です。
リードと比較すると安全性が高いので、アミューズメント施設でも見かけることがありますね。
マルチピッチクライミング
これもまたリードクライミングの派生として捉えることができます。
ざっくりと言えば、リードクライミングを繰り返し行なうスタイルです。
一般に、リードクライミングでは、クライマーとビレイヤー(命綱担当)が2人1組になって挑戦し、そしてその役割は固定的です。
完登したらクライマーは、ロープに身体を預けながら、地上で待っているビレイヤーのもとへと帰還します。
一方、マルチピッチクライミングも、基本的にはクライマーとビレイヤーの2人1組で行なわれます。
しかしながら、マルチピッチでは、クライマーとビレイヤーが交互に入れ替わります!
すなわち、クライマーは壁の頂上についたらビレイヤーとなり、下でビレイヤーを担当していた人がクライマーとして登り始めるのです。
この行為を繰り返すことによって登っていくのが、マルチピッチクライミングです!
まとめ
これにて、今回取り上げたクライミングの全ジャンルを確認し終えました。
改めて、冒頭で披露した概念地図をご覧ください。
いかがでしょう?
最初見たときは「なにがなにやら」と思われた方も、ここに至ってはそれなりに納得していただけるのではないでしょうか。
もちろん、この地図は「正解」でもなければ「完全」でもありません。
お詳しい方からすれば色々とツッコミどころがあると思いますし、ここに記載されていないジャンルのクライミングも存在します。
しかしながら、決してぼくの勝手解釈で制作したわけではなく、それなりの参考文献の裏付けがあって完成したものですので、初学者が身につける知識としては十分な信憑性があることを保証いたします。
また、これはぼくの感想であり、自己満足でしかありませんが、この地図の制作作業を経て、クライミング界に対する理解と親近感が飛躍的に高まったと感じており、すべてのジャンルのクライミングを一度は経験してみたいなという気持ちになりました。
この記事をご覧になっていただけた貴方もまた、この地図を通じてクライミングへの興味や愛着をいっそう強めていただけていればと思います。
最後にこれだけは言わせてください。
山に行きたくなった方はこちらの記事もどうぞ。
提供:ボルダリングジムBolBol