【名選手インタビュー】日本代表・小西桂選手!

橘

こんにちは、橘です。


ボルダリングジムBolBolボルボルでは毎月ゲストセッターをお呼びしてホールド換えを行なっているのですが、今回は超大物ゲストセッターにお越しいただきました。


さっそくご登場いただきましょう。


小西こにし かつら 選手です!!


もはや説明するまでもない、日本が誇る世界レベルのトップクライマーです。


藤井快ふじいこころ選手や緒方良行おがたよしゆき選手といった名だたる一流クライマーを抑えてのアジア選手権優勝

2020年のBJC(ボルダリングジャパンカップ)では、東京オリンピックに出場された楢崎智亜ならさきともあ選手や原田海はらだかい選手とともに決勝の舞台で戦い、日本代表に選出された傑物であります。

今回は、そんな小西選手をゲストセッターとしてお迎えしちゃいました!

セットに勤しむ日本代表選手!
完成した130°壁。半年間はこのままですので、ぜひお越しください!

そして、今回はセットだけでなく、小西選手にインタビューまでさせていただきました!

日本代表選手のクライミング遍歴から私生活に至るまであますことなくお尋ねして、その強さの秘密や今後の展望についてお伺いしてきましたので、その一部始終をみなさまもぜひご確認ください!

日本代表の軌跡

小西選手を語るうえで欠かせないのが、2020年BJCでの決勝進出

この実績を買われて、小西選手は日本代表の座を勝ち取りました。

有名な決勝課題の超難問、通称「パンダと笹」に挑む小西選手
(出典:https://www.youtube.com/watch?v=JMlvAnITP2A&t=10048s)

これを期に一気に知名度を高めた小西選手ですが、もちろん、その才覚はそれ以前から存分に発揮されていました。

そこで、まずは日本代表に選出されるまでの軌跡についてお伺いしていきます!

納得のいかない優勝

幼い頃からクライミングを始めていた小西選手。

そんな小西選手の小・中学生時代のクライミング遍歴から、まずはお尋ねしていきます。


橘

なんでも、最初は木登り大好き少年で、それがクライミングを始めるきっかけになったそうですね?

小西選手
小西選手

めっちゃ調べてますね(笑)

橘

もちろん、下調べはさせていただきました! 最初はぴなくる(現在はクライミングバム)さんに通われていたとか?

小西選手
小西選手

そうです。でも、ぴなくるはできて日の浅いジムだったので、しばらくするともっと本格的に練習したくなって、パンツーに行くようになりました。


「パンツー」とはクライミングジムPUMP 2」

神奈川県川崎市は中野島にある老舗ジムであり、日本代表選手もこぞって練習に訪れるリードクライミングのメッカです。

PUMP2でコーチたちと。

橘

神奈川で小西選手の年代といえば天笠あまがさ選手や土肥どひ選手がいらっしゃいます。彼らとの出会いもその頃ですか?

小西選手
小西選手

2人とは小学生の頃にコンペで知り合いました。その後、ジムでも偶然会ってって感じですね。

橘

やはり、ライバルとして意識しましたか?

小西選手
小西選手

うーん……、って言っても、ぼくだけ早生まれなんですよ。なんで、年齢区分が彼らより1つ下になるんですね。だから、ライバルって言っても闘えないことも多くて。

橘

たしかに、13歳のときに初優勝を決めたJOC(※)ではそうでしたね。天笠選手・土肥選手は1つ上の年齢区分で闘っていました。
※ジュニアオリンピックカップ。

小西選手
小西選手

なんで、成績残しても心境としては微妙な感じでしたね。「勝てたけどみんないなかったしなみたいな。

橘

なるほど……

13歳にしてJOC初優勝! ちょっと遠いですが、左端が小西選手です。

なにやら、早くも小西選手の意識の高さに触れた気がしました。

優勝したのにもかかわらず、ライバル選手の不在を理由に今ひとつ満足できないとは、なにかしら超然としたものを感じます。

わかりやすい数字上の成果ではなく、もっと本質的な欲求の充足を求めているのでしょう。


お買い得な初段をSNSにアップして悦に浸るぼくとは大違いです。

21歳とは思えぬ貫禄と若々しい笑顔が同居する不思議な青年です。

小西選手を育んだ道場

13歳でJOC優勝を果たした後も、着実に国内外の大会でトップクラスの成績を収めていった小西選手。

そのキャリアは2019年から2020年に最高潮に達し、アジア選手権優勝やBJC第5位という輝かしい成績を相次いで残しました。

ここからは日本代表に選ばれるほどの成績を上げることができた秘訣についてお尋ねしていきます。


小西選手
小西選手

1つにはPUMPでのレッスンのおかげですね。

橘

中学の頃から通い続けていたPUMP2ですね。

小西選手
小西選手

コーチはいろいろと変わったんですけど、そのなかでも樋口ひぐちさんに教われたことは大きかったと思います。


樋口さんとは、樋口純裕ひぐちまさひろ選手。

小西選手同様、中学生の頃から世界レベルの大会で好成績を残し、2021年のワールドカップではなんと優勝までされたPUMP所属の超一流クライマーです。

高校生になってから意識が変わったという小西選手。

小西選手
小西選手

もう1つの転機としては、どひけー(土肥選手)がそのとき教わっていたコーチを彼から紹介してもらったことですね。

橘

新しいジムに行かれたんですか?

小西選手
小西選手

そうです。八王子のROCK BEANSロック ビーンズっていうジムなんですけど、そこに行くようになってからフォームや動きをかなり意識するようになりました。

橘

お名前だけは存じています。なにやら本格派なジムだとか。

小西選手
小西選手

まあ、奇抜なホールドとか、コーディネーション決めてワーワーとか、そういうのはまったくないとこですね。

橘

インスタ映えを狙うところじゃないと?

小西選手
小西選手

まったく狙えないです。5級とか4級を完璧な姿勢で登れるようになるまでひたすら繰り返すような場所です。

橘

本当に強くなるためのジムなんですね。

小西選手
小西選手

ぶっちゃけ、強くなりたいならみんな行ったほうが良いジムだと思ってます。

美しいと評判の小西選手の登り

橘

そうした修行が結実したのが、2019年のアジア選手権あたりという実感ですか?

小西選手
小西選手

そうですね。高校2年生あたりから通い続けて、動きが安定したのが大きかったと思います。

橘

そして、2020年のBJCでは見事決勝に進出され、代表選手にも内定しましたね。

小西選手
小西選手

あのときは大学生になったのも大きかったですね。高校までは勉強が忙しかったんですけど、大学では適度に力を抜けるんで。

橘

適度に(笑)

小西選手
小西選手

はい、適度に(笑)

橘

なるほど、タイムマネジメントに融通が利くようになったのも追い風になったんですね。


かくして、日本代表に選ばれるまでの軌跡を一通りお伺いできました。

ところで。

ここまでお話をさせていただいて、小西選手はめちゃくちゃ気さくな方だと感じました。

話している内容自体は超ハイレベルなのですが、それをまったく感じさせないカジュアルな雰囲気とフランクな物言いで、とても親しみやすいキャラクターをしています。

最後のやりとりなんか、「今日のバイトはバックレようかな」とか言っている大学生みたいなテンションで話してくれました。

が。

彼はまごうことなきアジア王者です。

首から上は優しそうなフツーの学生さんです。首から上は。

小西選手の強さの秘訣には、この力の抜けた自然体な振る舞いが大いに関係ありそうです。

文武両道の私生活

小西選手といえば、勉学においても秀才であることで有名です。

クライマーとして自身の練習に励み、ジムスタッフとして子どもたちのコーチを務めると同時に、なんとあの国内屈指の名門・慶應義塾大学に席を置くエリート学生でもあります。

そんな小西選手の文武両道な私生活についてお尋ねすることで、物事で成果を上げるための共通点を探ってまいりましょう!

勉強 ・ 登攀 ・ 集中力


橘

小西選手は高校から慶應義塾ですよね。

小西選手
小西選手

そうですね。クライミングの成績も評価してもらうかたちで入学しました。

橘

小西選手ほどの実力者だとスポーツに専念しても良さそうなものですが、勉強も大切にしたんですね?

小西選手
小西選手

まあ、勉強は勉強で好きなんで。クライミングを中断して受験勉強に専念していた時期もありましたし。

橘

最初からご自身の意志で勉強との両立を希望されたんですね。

小西選手
小西選手

そうなんですけど、ちょっと誤算があって、進級についてめっちゃ厳しかったんですよ。入るまで知らなかったんですけど、毎年1クラスから1,2人は平気で留年するような学校で。

橘

それはかなりシビアですね。

小西選手
小西選手

まず、公欠が取れないんです。部活の公式試合だったらたしか取れたんですけど、クライミングはあくまで個人でやっていたのでダメでした。

橘

じゃあ、ご自身で希望した以上に勉強もやることになったと。

小西選手
小西選手

はい。なんなら留年しそうだったんで、必死でした(笑)

世界大会に出場したとしてもただの「欠席」扱いだったそうです。

橘

そんな勉強に厳しい高校に通いながらでもコンペでは優秀な成績を収め続けています。勉強との両立の秘訣はなにか思い当たりますか?

小西選手
小西選手

んー……、強いて言うなら、集中力ですかね。

橘

集中力ですか。

小西選手
小西選手

はい。ちゃんと切り替えられるから両立できるし、逆に、勉強やクライミングを通じて養った集中力がどちらをやるときにも利用できているという感じはしますね。

橘

集中のコツってなにかありそうですか?

小西選手
小西選手

クライミングについては呼吸」ですね。よく言われることですけど、深く呼吸するように意識してます。

橘

なるほど、大事だって言いますね。

セッターとしてテキパキと作業を進める小西選手。

小西選手
小西選手

あとは、「音を消す」かな。

橘

おお、なんか達人っぽい!

小西選手
小西選手

まあ感覚的なことなんで説明が難しいんですけど(笑) すごく変な言い方をするなら、「無関心になる」ってことです。

橘

なるほど、無関心ですか。

小西選手
小西選手

自分がやろうとしていること以外に注意を払わないようにしていくという感じですね

橘

なんだか静かなイメージですね。

小西選手
小西選手

メラメラする感じではないですね。対象に向かってぐっと迫るんじゃなく、むしろ引いて見て、まわりにある邪魔なものをどかしていくような感覚です。

橘

気合いを入れ直すとかではなく、むしろ力を抜く的な?

小西選手
小西選手

ああ、そうです。余分なを削っていく感じですね。

小西選手の集中法は、むしろ「ぼんやりする」のだそうです。

好奇心からスポーツ工学へ


橘

大学に進学してからはスポーツ工学を専門とする研究室に所属されていますが、これは競技力の向上を意図した判断だったんですか?

小西選手
小西選手

どちらかというと、単純に好きだったからですね。もともと数学とか物理は好きだったんで、面白そうってことで入りました。

橘

数学がお好きなんですね!

小西選手
小西選手

はい、わりと理屈が好きなので、しっかり考えていって問題が解ける感覚が楽しいですね

橘

クライミングについても理論派なほうですか?

小西選手
小西選手

んー、どうだろう。特別ぼくが理論派ってことはない気がしますね。ある程度のレベルになると、みんな自分なりの理屈は持っているので。

橘

なんか意外です。一流選手って、わりと感覚派な人が多い気がしていました。

小西選手
小西選手

表現方法の違いかなって思います。「重心がこっちにあるから回転するじゃん」みたいな話自体はわりとよくするんですけど、それを「支点に対して重心がここだからモーメント発生するじゃん」って表現するかどうかっていう。

橘

なるほど、感覚か理論かという区別より、同じ現象を感覚的に説明するのか、科学的に説明するかっていう違いってことですね。

小西選手
小西選手

理解自体はみんな共有していて、ただその表現方法に力学の用語を使うかどうかっていうことですね。


YOUTUBEで配信されたスポーツサイエンスカフェ。
小西選手在籍の研究室が発信する中高生向けの動画コンテンツです。
(出典:https://www.youtube.com/watch?v=w9oqODvO6Z0, 2022年5月5日現在)

橘

ところで、いまはどういう研究をされているんですか?

小西選手
小西選手

指の使い方を研究しています。たとえば、ぼくは5本で保持するんですけど、どひけー(土肥選手)は3本なんです。そういう持ち方の違いが生まれる理由を調べています。

橘

なかなか細かいところに着目されるんですね。

小西選手
小西選手

クライミングに関してはミクロに絞ったほうが研究しやすいんですよ。全体的な動きとかになると、ホールドの向きや形状が無数にあって、パラメータが膨大になっちゃうので。


2022年BJCでの土肥圭太選手。たしかに、指3本で保持しています。
(出典:https://www.youtube.com/watch?v=SxA0WKHHBNQ&t=6347s、2022年5月4日現在)

橘

それで、研究の進捗はいかがですか?

小西選手
小西選手

まだ調べ始めたばかりなんであんまりですが、これを研究していけばもっと合理的な保持力強化の方法論が提案できるんじゃないかなと思っています。

橘

たしかに、保持力強化ってなにしていいかわからないですね……

小西選手
小西選手

いまは「とりあえずぶら下がっとけー」みたいな根性論的な考え方が主流なんですけど、「ここの筋肉のこの動かし方を鍛えれば良いよ」って言えるようになりたいですね。

日本代表選手の在籍は研究室にとっても心強いことでしょう!

こうしたお話のなかで、2つの重要なキーワードが見えてきたように思います。

その1つは、脱力。

お話をさせていただいていると、小西選手はとてもリラックスしていて、楽しそうに喋る方だということがわかります。

一般に、スポーツで成果を上げようとするとメラメラと気合いの入った精神状態になりやすいように思われますが、小西選手はむしろ真逆で、静かにぼんやりと集中力を高めます。

こうした脱力の姿勢は、スポーツのみならず、学問においても親和性が高いのでしょう。

リラックスした笑顔が印象的です。

そしてもう1つには、好奇心

小西選手はよく笑う方で、「楽しそう」とか「面白そう」といった言葉を頻繁に使われます。

こうした純粋無垢なモチベーションが、多忙な生活のなかで着実に成果を上げるための原動力となっていることが窺えました。


そしてなにより、こうしたご自身の振る舞いについて小西選手は自覚的であるようです。

つまり、「上手くいくときの精神状態」というものをきちんと確立し、意識的にそこへと調整してことができるのだと感じられました。

クライマーとしての展望

小西選手のこれまでの歩みを踏まえて、ここからは今後のことについて伺っていきましょう。

まずは2020年のBJC以降の近況から伺っていきます。

幻のワールドカップと体調不良

2020年には日本代表にまで内定した小西選手ですが、その後の成績は低迷してしまっています。

ちょっと触れづらい話題にはなりますが……

まずは、ここ最近の成績不振の理由を思い切ってお尋ねしました。


小西選手
小西選手

最初のきっかけは、コロナでワールドカップが中止になっちゃったことですね。

橘

そういえば、最初のパンデミックはまさに2020年のことでしたね。

小西選手
小西選手

それで暇になっちゃって、わりとヤケになって大学の面白そうな授業を片っ端から履修してみたんですね。

橘

ヤケになってやることが勉強ってすごいですね。

小西選手
小西選手

そのせいで2021年のBJCは開催の週間前まで課題提出に追われちゃって、完全にパンクしちゃいました(笑)

橘

勤勉なんだか不真面目なんだかよくわからない話ですね。

小西選手にとって勉強は娯楽に含まれるみたいです。

小西選手
小西選手

で、2022年こそは頑張るぞーと思った矢先7月に入院して、てんかんが発覚してっていう。

橘

お話は存じていました。体調不良で苦しまれた1年だったそうで……

小西選手
小西選手

まあ、病気そのものより薬の副作用がやばかったですね。いちおう練習はしてたんですけど、全然調子が上がんなくて。

橘

できるかぎり弱くならないようにするのがやっとみたいな?

小西選手
小西選手

そんな感じですね。しかも12月にはまた痙攣発作を起こしちゃって入院ってなって、大会どころじゃないなあって感じでしたね。

橘

なかなか噛み合わない時期だったんですね……

小西選手
小西選手

いやもう、良い感じに噛み合いませんでしたね

難しい状況だったでしょうが、淡々と話してくださいました。

”世界”に向けて再起動

橘

現在はいかがですか?

小西選手
小西選手

いまはかなり良くなりましたね。薬を変えてもらって副作用もだいぶ抑えられましたし、4月からようやく本格的なトレーニングができるようになりました。

橘

では、来年のBJCは期待しても良いんでしょうか?

小西選手
小西選手

今回はしっかり準備していこうと思います。やっぱりワールドカップは出たいんで。

来期のワールドカップまではしっかり見据えているという小西選手。

橘

その後の展望としてはいかがでしょうか?

小西選手
小西選手

やっぱり、パリ(オリンピック)ですね。そこでクライミングはいったん一区切りだと思います。

橘

まずは2024年まで頑張ってみて、その先はそれまでの結果を見て決めていくという感じでしょうか?

小西選手
小西選手

そうなりますね。なので、いまは(大学)院への進学を目指しています。学生の身分のほうがクライミングに集中できるんで。

橘

学生なら適度に力を抜けれますからね!

小西選手
小西選手

まあそういうことですね(笑)

橘

では、まずは来年のBJC決勝でふたたび小西選手の登りを見れるように応援しています!

小西選手
小西選手

ですね。お見せできるように頑張ります。

記念撮影していただきました!

次回予告!

さて、今回の内容は以上となりますが、紙幅の都合により掲載できなかった話題がまだまだたくさん残っております。

そこで、小西選手インタビューの続編を5月21日に公開予定です!

合言葉は、「持たざる強さ」。

小西選手を支えるメンタルの秘密を、ぜひともチェックしてみてください!

ボルダリング部の中学生たちは一足先に聞かせていただきました。

さて。

最後に、小西選手が現在所属されているジムをご紹介します。


神奈川県横浜市にあるクライミングジムRISEです!

RISEで練習中の小西選手

小西選手をはじめ、BJCレベルの猛者がごろごろ在籍している名門ジムです。

とはいえ、初心者用の課題やキッズウォールもあり、ご家族でも楽しめるアットホームなジムとなっております。

お近くにお越しの際はぜひお立ち寄りください!




また、冒頭でもご紹介しましたが、今回、小西選手がセットをしてくださった壁は2022年10月まで残っています。

日本代表が手掛けた課題にぜひとも挑戦しに来てください。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

それでは、ガンバです!

提供:ボルダリングジムBolBol