小西桂選手インタビュー後半戦! (メンタル編)

橘

こんにちは。橘です。


今回は、前回に引き続き小西選手へのインタビューの内容をお伝えしてまいります。

テーマは小西選手のメンタリティ。

前回の時点で、すでに「脱力」と「好奇心」という重要な2つのキーワードを確認しました。

今回は、そんな小西選手の精神面における強さの秘密をさらに掘り下げてまいりましょう!

この朗らかな笑顔もまた小西選手の強さに関係しているのです!

なお、インタビュー前半の内容は以下のリンクからご確認いただけます。

まだご覧になっていない方や、もう一度おさらいしたい方はぜひチェックしてください!

小西選手の推進力

日本代表クライマーにして慶応BOYボーイな小西選手。

クライミングも勉学もバリバリこなし、ワールドカップに向けて着々と準備を進める新進気鋭の21歳。

と。

こんなふうに聞かされてしまうと、メラメラとした向上心を宿した人物像を想像する方も多いでしょう。

ところが、その実態は、強い上昇志向を備えた熱血漢といったステレオタイプなエリート像とは一線を画するものでした。

今回は、こうした卓抜した行動力と成果を実現している小西選手の人柄に迫ります

嫌いになるほど好きじゃない


橘

これまでお話を伺ってきて、「楽しそう」と感じたら即行動する方だなという印象です。

小西選手
小西選手

たしかにわりといろいろなことに興味を持つほうだと思います。なんでも調べたいタイプだし、知らないままはしゃくなんですよね(笑)

橘

好奇心旺盛なんですね。

小西選手
小西選手

そうですね。気になったら動くし、楽しいかどうかが判断基準になっていることが多いですね。

橘

「好きなことより得意なことをしたほうが良い」みたいな意見もありますが、小西選手は好きなこと派ですか?

小西選手
小西選手

ぼくの場合はそうですね。実際、運動も理系も苦手でしたからね。

橘

苦手でも楽しいものは楽しい?

小西選手
小西選手

全然楽しいですね。実力はたくさんやっているうちに勝手にある程度はついてくるんで。

橘

好きだから続けているうちにクライミングも理系も上手になった、ってことですね。

まさに好きこそものの上手なれなんですね。

橘

ちょっと意地悪な質問ですが、逆にクライミングや勉強を嫌いになりそうだったときってあるんですか?

小西選手
小西選手

んー、すごく変な言い方になるんですけど、嫌いになるほどは好きじゃないんですよ、きっと。

橘

ちょうど良い距離感をキープしているみたいな?

小西選手
小西選手

そうですね、ぼくってけっこうぼんやり生きてると思ってるんで(笑)

橘

あまり1つのことにこだわりすぎない、みたいな?

小西選手
小西選手

ですね。あんまり熱くなるタイプじゃないです。

BJC決勝の小西選手。
純粋に楽しんでいるかのような微笑みが印象的です。
(出典:https://www.youtube.com/watch?v=JMlvAnITP2A&t=8794s、2022年5月4日現在)

気持ちのせいにしたくない


橘

強い方たちってわりと情熱的な気がします。小西選手のようなタイプは珍しいのではないかと思うのですが?

小西選手
小西選手

自分でもそう思います(笑) なんで、いっしょに登っていてもギャップを感じることは多いですね。

橘

集中のコツについてお伺いしたときもそうでしたが、一歩引いたような姿勢が特徴のように思えます。

小西選手
小西選手

そうかもしれないですね。実際、みんながメラメラしてるときに「気合いで止まるならもう止まってんだよなぁ」とか思って眺めたりしてます(笑)

橘

冷めてますね(笑)

小西選手
小西選手

もっと熱くなったほうが良いのかなぁとは自分でも思うんですけどねぇ……

おふざけとして騒ぐことはあるとのこと。

橘

そのままで良いのではないでしょうか?
小西選手のようなタイプでも成果を出せるという事実に救われる方もいらっしゃると思います。

小西選手
小西選手

まあ、ぼくはあまり気持ちには頼らないですね。むしろ、「気持ちがあればできる!」みたいなのって正直苦手で。

橘

精神論的なやつですね。

小西選手
小西選手

あれ、言われたほうは辛いと思うんですよね。できなくても気持ちがないわけじゃないと思うんで。

橘

たしかに、本人なりに頑張っているはずですからね。

小西選手
小西選手

まあ、かりに精神が影響してるとしても、もっと直接的な原因がほかにあると思うんですよ。

橘

メンタルの結果として表れる物理現象ということでしょうか?

小西選手
小西選手

そうです。どっちかっていうと、そういう客観的に観測できる事実に注目していきたいですね。

課題を観察する小西選手。

この考え方にはある種の優しさを感じました。

客観性を重んじる科学的態度とも見れますが、それよりはもっと温かみを帯びている気がします。

ひょっとしたら、小西選手自身、「気持ちが足りない」と指摘された過去があるのかもしれません。

けれども、彼はあくまでもご自身のスタイルを貫いて、ゆったりと落ち着いて世界水準まで到達することに成功したのです。

だとすれば、小西選手の言う「ぼんやり生きる」とは、「流されて生きる」と同義ではないのだろうと推察されます。

「だらだらするのが好き」?


橘

RISE(※)さんのホームページに書いてあったのですが?

※小西選手が現在所属しているジム

小西選手
小西選手

だらだらするの大好きです(笑) 休日なんかずっとだらだらしてます。

橘

でも、その一方では、コロナでワールドカップがなくなったからという理由で猛勉強を始めてしまうほどアクティブですよね?

小西選手
小西選手

まあそうなんですが、「だらだらする」の基準が「家のなかにいるかどうか」なんで、勉強もだらだらする」に含まれます。

橘

ええ!?
ふつう、「だらだらする」って言ったら寝っ転がってポテチ食べながらスマホ流し見とかだと思うんですけど?

小西選手
小西選手

だからまあ、そういう感じで勉強してます(笑)

橘

勉強ってそんな気軽にできるもんなんですね。

小西選手
小西選手

ぼくはずーっと軽いジョギングをして生きているような感じなので、動き出すときの抵抗が少ないんですよ。

橘

なるほど、気負わずにとりあえずやり始めるみたいな。

小西選手
小西選手

そうです。全力で走ろうとするから始めるときに抵抗が大きくなるんで、ふらっと始めてゆるーく続けていく感じですね。

暇つぶしにだらだらと数学の問題を解き続けるのだとか。

ここで、これまでの発言と合わせて1つの仮説が浮かびました。

小西選手の行動力を支えている1つの要因は、精神的な身軽さではないでしょうか。

「嫌いになるほど好きではない」という感覚の本質は、過剰な期待を抱かないということ。

失敗をあくまで物理現象としてとらえることで、それを人格に及ぶ大きな問題意識にしないで済む。

「だらだらと勉強する」という姿勢にも、気負いのなさが窺えます。

このように考えると、小西選手は、過剰な欲望や劣等感、強迫観念といった精神的な足枷あしかせになりやすい要素をほとんど持ち合わせない方のように思われました。


つまり、ある意味でブレーキが外れているのです。

天才的な遊び人

では、そんな小西選手にとってのアクセル”とはなんでしょう。

これまでのお話のなかにヒントがありましたが、将来のことについて詳しくお伺いしたときに、その答えがはっきりと見えてきました。


橘

クライミングのためにも、まずは大学院に進学されるとのことでしたが(※)、その後の進路は室伏広治選手のようなアスリート兼研究者でしょうか?

※インタビュー前半でお伺いしました

小西選手
小西選手

どうですかね(笑) まあ、選択肢としてはアリですけど、ほかにもいろいろ好きなことがあるんですよね、ぼく。

橘

じゃあ、クライミング一筋と決めているわけじゃないんですね。

小西選手
小西選手

そうですね。クライミングは続けるけど、ふつうに就職して休日は温泉めぐりとかも良いなあと。

橘

まったりとしたプランですね(笑)

小西選手
小西選手

どっちにしろ、修士(過程)が終わるのがちょうど2024年のパリ(オリンピック)のタイミングなんで、そこが節目になるかなと。

橘

じゃあ、まずはそこまでやってみてからって感じなんですね。

小西選手
小西選手

まあ、どうなるかわかりませんね。本当にやりたいことがたくさんあるので。


こうした一連のお話を伺って、最終的に「遊び人」という言葉を連想しました

これほどまでに高い実績を収めてきたのにもかかわらず、小西選手にとってクライミングはあくまで「数ある好きなことの1つ」であるように思われます。

使命感やプライドといった気負いは感じられず、義務でもなく役目でもなく、言っていれば「趣味」としてそれを楽しんでいる印象です。

おちゃめにピースサイン。
小西選手の本質は、木登り大好きな小学生の頃のままなのでしょう。

「遊び」と「本気」は矛盾しない。

本気が必ずしも熱気を帯びるとは限らない。

まったりと加速して、のらりくらりと抜きん出る。


旺盛な好奇心の赴くままに、スキップするように世界を駆けまわる遊び人というふうに、ぼくには感じられました。

もちろん、さまざまな葛藤や苦悩もあるでしょうが、こうした無邪気な人物像が、小西選手の主要な一側面として存在しているのではないでしょうか。

小西選手から子どもたちへ

最後に、ぼくが顧問を務めるBolBolボルダリング部の中学生たちにアドバイスを頂戴しました。


橘

まずは高校生のときに小西選手の登りを変えたというコツについてお伺いしたいです。

小西選手
小西選手

言葉にするとすごい簡単なんですけど、「肩を落として脇を締める」ってことですね。

橘

たしかにシンプルですが、そうおっしゃるということは言葉ほど簡単ではないということですね?

小西選手
小西選手

そうなんです。最初のうちは簡単な課題でも気づいたら肩が上がってるんですよ。

橘

そうならないように、徹底的に反復練習されたんですよね。

小西選手
小西選手

そのときに見てくれる人が大事ですね。ぼくの場合、照吾しょうごさん(※)にずっと見てもらってました。
※ROCK BEANSのオーナー

橘

フォームの崩れを指摘してくれたんですね。

小西選手
小西選手

自分ではなかなか気づけないので、指摘してもらいながら少しずつ修正しました。

美しいと評判の小西選手の登り。

小西選手
小西選手

あと、これはRISEライズの子どもたちにも言っていることですけど、楽しんでやりなよってことですね。

橘

小西選手自身が大切にされていることですね。

小西選手
小西選手

まあ、めっちゃ強い子とかにはわざわざ言わないんですけど、そうでない場合、まずはそこが大事だと思います。

橘

楽しくなければ上手くもなれないということでしょうか。

小西選手
小西選手

そう思います。なんで、クライミングに限らず、楽しい」って気持ちを大切にしてほしいですね。

橘

登れるかどうかという部分はべつとして、登るかどうかという行動原理の部分については、やはり気持ちが大事なんですね。

小西選手
小西選手

そこは理屈ではないと思います。やるかどうかの判断については、自分の気持ちとか意志が大事ですね。まわりに流されて、とかは良くないと思います。

部員たちに直接お話してくださいました。

「持たない」という強さ

今回のインタビューを通じて見えてきた小西選手の人柄を改めて振り返っておきましょう。

たった小一時間の対話でわかったような口を利くのは厚かましい気もしますが、ぼくなりに感じた小西選手の人間像を端的に説明するなら、「余分なものは持たない人」と言えそうです。

誰もが持っている好奇心。

その純粋な気持ちを、余計なもので潰さない。

特別な才能」を持っているというよりは、「普通の弱み」を持っていないことが、小西選手の強さの本質だったように思います。



橘

小西選手、本日は本当にたくさんのお話ありがとうございました!

小西選手
小西選手

いえいえ、雑談程度でしたけど、こんなので良ければ

橘

とんでもない! 名言・箴言の連続でした!

小西選手
小西選手

なら良かったです(笑)


前回もご紹介しましたが、西選手が現在所属されているジムを改めて告知させていただきます。


神奈川県横浜市にあるクライミングジムRISEです!

小西選手をはじめ、BJCレベルの猛者がごろごろ在籍している名門ジムです。

とはいえ、初心者用の課題やキッズウォールもあり、ご家族でも楽しめるアットホームなジムとなっております。

お近くにお越しの際はぜひお立ち寄りください!




なお、このたび小西選手がゲストセッターを務めてくださった壁は2022年10月まで残っています。

日本代表が手掛けた課題にぜひとも挑戦しに来てください!

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

それでは、ガンバです!

提供:ボルダリングジムBolBol