こんにちは! BolBol店長のヒロトです!
前回に引き続き、今回も「ホールド交換ドキュメンタリー」と題して、知られざるホールド交換の全容をご説明していきたいと思います。
タイトルにもあるように、今回は「セット編」。
ホールドを取り外して白紙にもどった壁に新しい課題をセットしていく模様をお伝えしていきたいと思います!
前回のあらすじ
何事も準備が肝心ということで、前回はホールド交換日前日までに行なう作業についてご覧いただきました。
BolBolはホールド交換による休業をしないと決めているので、営業時間外および定休日にすべての作業が完結するよう、3日かけて少しずつ作業を進めます。
そのうち、最初の2日で、ホールド外しと洗浄、そして次に使うホールドの準備を行なうのでした。
このように、脚立を組んで即席の足場をつくり……
ホールドを外していきます。
外したホールドを笑顔で洗浄!
ただし、3時間以上に及ぶ単純作業を通じて、表情と意識が次第に薄れていきます。
洗ったホールドの天日干し。
この日は晴れていて助かりました!
そして、ホールド交換前日の営業終わりに、セットで使用する新しいホールドを準備します。
というわけで、今回はこの続きからです!
朝の9時からセット開始!
月曜日(定休日)の朝からセット作業が始まります。
最初の工程はセットする内容の確認です。
新たな課題の本数やだいたいのグレード感、使いたいホールドをセッター全員で確認します。
そして、誰がどの課題を担当するのかを決めておきます。
ボルダリングジムはレジャー施設であると同時に、クライマーたちの練習場所。
様々な能力とムーブをまんべんなく強化できるような壁を目指して、課題の傾向が偏らないようにします。
そのため、作りたいムーブや、作ってほしいムーブについては、全員で入念に確認し合います。
セットは順序が大切!
セットの計画を共有したら、いよいよセット開始です。
セッターが各々、自分が担当することになったルートを作成していきます。
このとき、大きなホールドから優先的に取り付けるという鉄則があります。
スペースに余裕があるうちにボテなどの目立つホールドを取り付けることで、壁の全体像が定まり、作業を効率的に行なうことができます。
この時点ではあまり細かいことは気にしません。
最初からこだわりすぎると作業スピードが損なわれてしまいますし、グレード感などの修正なら後でいくらでもできるからです。
というわけで、最初に立てた計画にしたがって、黙々と作業を進めていきます。
また、高難度の課題を早めにつくっておくと楽になるというコツがあるのですが、その理由は後ほど説明します。
1日で終わらせないといけないので、とにかく時間との勝負です!
試登を挟んで計画修正
ある程度の課題数ができてきたら、いったん試登をしてみます。
「試登」とは文字どおり、試しに登ってみること。
実際に登ってみることで、意図していたグレード感やムーブがちゃんと実現されているかどうかテストします。
さきほど「早めに高難度課題をセットしておくと楽」とお伝えしたのは、試登の必要性があるからです。
まだ体力のあるうちに高難度課題を登っておきたいので、序盤のうちにセットしまえば楽になるという事情があるのです。
全員で登って意見を出し合うのですが、ほとんどの場合、どの課題にもなにかしらの改善点が見つかります。
なので、修正することを織り込み済みで作業を進めています。
とはいえ、最初に決めたことをきっちり守っているので、大半の修正はホールドの距離感や向きを微調整するという軽微な作業で済みます。
グレード感はこうした微調整で±1段階くらいは動かせるものなので、あまり神経質に決めすぎません。
最初からこだわって完璧を求めるのではなく、致命的な間違いのないように最低限の計画だけ固めておき、トライアンドエラーのなかでクオリティを上げていきます。
もちろん、最終的にはベストな内容できるよう、後の仕上げ段階では妥協を許しません!
試登の結果によって想定グレードから変更する場合が多々あります。
これを参考にして、後半のセット作業の計画に修正を加えるのです。
14時頃にお昼休憩
ここでいったん一息つきます。
時間との勝負とはいえ、エネルギーが切れてしまっては作業が捗りません。
栄養と休息をしっかり取って後半戦に備えます!
セットでは知恵と体力をフル活用。作業中にも軽食によるカロリー補給は欠かせません。
15時から後半戦に突入!
栄養補給を済ませたところで、セットはいよいよ仕上げに向かいます。
前半に作った課題に修正を加えつつ、残りの課題をセットしていきます。
さきほどもお伝えしたとおり、試登の結果を踏まえてつくるべき課題のグレードに変更が生じている場合があるので、課題の内容を再検討しながらセットしていきます。
このあたりからムーンボード横のマンスリー課題のセットも始めます。
この垂壁も含めて言えば、BolBolでは毎月壁が2面分変わることになります。
かなりのハイペースでホールド替えをすることは、当店の自慢の1つです!
ラインセットになるので、当店の小さなコンペ壁と言えそうです!
予定していた全課題を作り終えたところで、ふたたび試登。
完成に向けて微調整を繰り返します!
テープ貼り
セット作業もいよいよ大詰め。
仕上げ作業の1つとして、課題に命を吹き込む作業とも言えるテープ貼りを行ないます。
BolBolの課題は基本的にはカラーセット(同色ホールドのみを使用したルート)になっていますが、同系色が隣接するなどの事情があるため、ホールド1つひとつにテープを貼って、課題の視認性を高めます。
単純ですが意外に大変な作業で、効率的にやらないと時間がかかってしまうため、手順をしっかりと考えて行ないます。
まずはテープを椅子に貼りつけていきます。
このとき、課題の番号だけではなく、「スタート」や「ゴール」、さらには「ボテ」などの表示が必要になることも考え、切り取るテープの大きさを考えています。
さて。
書き終えたテープはいったん身体に貼りつけます!
1回でたくさん貼れたほうがスピーディーなので、できるだけ多くのテープを身体にくっつけてから壁に向かうのです。
スピードはもちろん、見やすい箇所を選んで貼るので、意外に丁寧さと頭脳も必要になります。
ついに完成!
夜の19時をまわったところで、ついにセットが完了しました!
休憩を挟みつつではありますが、作業開始からじつに12時間以上が経過しています。
一日中、頭も身体も酷使したのでくたくたになっていますが、完成した壁を見るとなんとも言えない達成感があります。
ちなみに、BolBolはムーンボード横の垂壁を除けば全面がまぶし壁。
その強みを活かして、マンスリー課題やその他の即席課題をたくさんつくれるように、テープ課題に使用されないホールドも最後にまぶしておきます。
妥協を許さぬ最後の微調整
ところが、完成したあとも往々にして微調整が入ります。
不思議なもので、完成したあとに壁を眺めていて初めて気になる箇所というのが毎回出てくるのです。
なので、最後の詰めとして、ベストな出来になるようにこだわっていきます。
過去にはただ1本の課題のゴールがどうしても決まらず、深夜12時をまわったこともあります。
ただし、どれだけこだわっても、お客様たちに登っていただくまで最終的な成否はわかりません。
予想以上の保持力やリーチを発揮され、課題を壊されてしまう(想定した動きをしてもらえない)こともしばしばです。
もっとも、さまざまな登り方をしていただけること自体は大歓迎なのですが、そうした想定外のムーブによって課題の難易度が下がってしまうようだと、セッターとしてはなかなか悔しいものがあります。
とはいえ、そうやってクライマーに予想を裏切られることもセッターの醍醐味の1つだったりします。
みなさん良いムーブを編み出してくるので、すべてが「計画どおり」というわけにはいきません。
みなさんの登りを見ていると反省点がたくさん見つかりますので、それらを次回のセットに活かしていきます!
まとめ
以上が、セット作業の一連の流れとなります。
前回の記事と合わせて、今回は2部作でホールド交換の全容をお伝えしてきました。
普段は「関係者以外立ち入り禁止」な部分についてご覧いただきましたが、興味深く感じていただけたでしょうか?
自分でつくった料理を食べると、その過程を知っているぶんだけ思い入れがあって美味しく感じられるのと同じように、課題づくりについて知っていただけたことで、みなさまにはクライミングをますます楽しんでいただけたらうれしいです。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
それではみなさん。
ガンバです!
提供:ボルダリングジムBolBol