こんにちは、タクマです! いつもよりテンション高めです!
今回はみなさんに大事なご報告があります。
すでに直接お会いした方にはひとしきりお話してしまったあとなので、ご存知の方も多いかもしれませんが、この場を借りていまいちどお伝えさせていただきます。
このたび、ぼく、加藤拓真は……
小川山の!
サマータイム(5.13b/c)を!
ついに完登しました!!!
5月末からトライを重ねること約1ヶ月半。
ようやく小川山が誇る伝説級の垂壁課題を登破することに成功いたしました!
クライミング黎明期を支えた故・杉野保氏の連載企画「OLD BUT GOLD」においても紹介されたことのあるこの由緒正しき難課題を攻略できたことは、たいへんうれしいですし、誇らしく感じます。
瑞牆山”神の手(13c/d)”完登から1年、今年もまた1つ、リードクライマーとして大きな成功を収めることができました。
ということで今回は、サマータイム完登の軌跡を振り返っていきたいと思います。
高難易度のリードクライミングに挑戦される方にとって有益な記事にすると同時に、ぼくの挑戦を支えてくださった方々への感謝を込めた内容にしたつもりですので、みなさんぜひお読みになってください!
5月29日(初トライ)
初めてサマータイムと対峙したのは、夏の気配もまだ弱々しい5月末のこと。
このときは総勢4人で小川山は兄岩にやって来ました。
この日の目的は、サマータイムが挑むにふさわしい課題であるか見極めること。
と同時に、初登における最大の目的は、その絶壁を全身で観察・体感することでした。
ホールドが厳密に指定されているわけではない外岩のリード課題においては、ムーブは個々人の裁量に大きく委ねられます。
なので、まずは使用できるホールドの見極めと、おおよそのムーブの立案という、攻略の土台づくりから始めることにします。
そこで、オンサイトトライでは落ちてもトップアウトします。
落ちたところから休憩を挟んで再スタートし、壁の全容を把握するのです。
ロープで吊られたまま中空で1時間ほどレストします。ビレイヤーを務めてくださる方には頭が上がりません。
この日はオンサイトトライを含み、2回登ったところで引き上げました。
おおよそのムーブの方向性を掴むことができましたし、サマータイムが噂通りの名課題であることを身を持って味わうことができて、大きな手応えを感じた日でした。
6月5日(挑戦2日目)
翌週に早くも再訪することとなった小川山。
この日のメンバーは総勢5人。
ぼくがスタッフを務める BolBol に通ってくださっている常連メンバーのみなさんです。
この日は外岩初心者の方々に比較的やさしい課題を楽しんでいただくことも目的の1つでしたが、小川山を訪れた以上は、自身の目標課題への挑戦も欠かしません。
前回に引き続き、この日も攻略のためのムーブづくりに勤しみました。
外岩リードに限らず、クライミングをやっている方にとっては、より高い効率性と成功率を求めてムーブを洗練していくことは常識かと思います。
というわけで、ぼくもこの日は前日に考案したムーブに修正を加えました。
ムーブが固まるまでは地道なトライアンドエラーの連続ですが、これもまた難課題挑戦への醍醐味です。
失敗を繰り返しながらも、着実にゴールに近づく感覚がたまりません!
6月19日(挑戦3日目)
新しい顔ぶれで訪れることとなった3回目の小川山。
初めてご一緒させていただいたのは、この日が外岩初挑戦となった女性の方と、神奈川県代表にも選出された高校生の大西さんです。
お二人に外岩の楽しさをお伝えすると同時に、やはりこの日もサマータイムに挑戦。
ところが、当日は前夜の雨の影響で本気トライはままなりませんでした。
とはいえ、まともなトライができない状況でも、やるべきことはたくさんあります。
挑戦に空白期間ができてしまうと、それまでに積み上げた攻略の感覚が薄らいでしまいます。
なので、本気トライはできずとも壁にとりつき、ムーブの確認や戦略の再検討など、頭を使った努力の積み重ねを行ないます。
自然が相手ですからバッドコンディションは当たり前。悪条件のなかでも、やるべきことを粛々と行なう姿勢が、外岩攻略には欠かせません。
一方で、この日は初めてご一緒していただいたお二人に外岩を楽しんでいただくこともできました。
暑さが厳しくなりはじめた時期でしたので大変だったと思いますが、無事に外岩を満喫していただけたようでうれしかったです。
当日はお付き合いくださり本当にありがとうございました!
7月3日(挑戦4日目)
早朝6時からトライすることとなったこの日のサマータイム。
お昼からの雨予報を危惧して、深夜3時に出発しました。
この日のパートナーは大谷拓海さん。
過去にはBolBolのホールドセットを何度も手伝ってくださった実力者です。
ベテランセッターである大谷さんのさすがの手際もあって、到着後はスムーズにトライに入ることができました。
ところが、この日も前日が雨だったために本気トライは断念。
個人的に第2核心とみなした箇所のムーブ固めを行いました。
この時点でムーブはほぼ完成。あとは全力トライができるチャンスを待って、練習を重ねるだけとなりました。
この日はサマータイムのほかにも、”もみじ(5.10a)”や”ウォーリーを探せ(5.11a)”といった課題にも挑戦。
サマータイム攻略も大切ですが、外岩クライミングそれ自体を楽しむことも忘れません。
また、こうした簡単な課題をしっかり登っておくことで練習にもなります。
大谷さん、当日はたいへんお世話になりました! また一緒に行ってください!
7月10日(挑戦5日目)
久しぶりに本気トライのチャンスに恵まれたこの日。
しかも、挑戦5日目にして、ついに完登目前というところまで届きました!
さて、自分のトライも大切ですが、この日はご同行いただいたみなさんに外岩を楽しんでいただく日。
というわけで、一緒に来てくださった3名の方にはトップロープを満喫していただきました。
ベテランとしてトップロープの準備をしたあとは、各人のレベルに合わせて”もみじ(5.10a)”と”マガジン(5.10a)”に挑んでもらいました。
ほかにも、ビレイ講習やみんなで動画撮影など、ワイワイと盛り上がることができて楽しかったです!
一方で、ぼくはいよいよサマータイムに本気トライ。
この日も前日に雨が降っていたために、岩肌がほんの少し湿っていたのですが、それがむしろ好感触をもたらしてくれていると判断できたために、本腰を入れた挑戦を決断しました。
前回の本気トライからじつに1ヶ月ぶりとなってしまいましたが、その間もムーブの確認などやれることはやってきたので、準備は万全です。
疲れない程度にムーブの確認をして、十分に練習してからいったんレスト。
この時点から、一緒に来てくださった方々は、ぼくを全面的にバックアップしてくださいます。
支えてくださる方々に感謝しつつ迎えた1度目のトライは、残念ながら序盤でフォール。
しかしながら、前回までに固めたムーブに確信があったので、練習は不要と判断。
ブラッシングだけして下りました。
続く第2トライは、過去最高の出来栄えとなりました。
個人的に、サマータイムには5〜12mの間に3つの核心部があると考えているのですが、その最初の2つの核心をこのときに突破いたしました。
2本目のクリップをかけたところで、すでに両手指先の感覚は酷使による痛みで麻痺している状態。
全身に力を入れる状態が続き、呼吸もままなりません。
そんな極限状態のなか、登り切りたい一心で手を進め、ついに到達した最終核心。
最後の力を振り絞りましたが、攻略まであと数センチ及ばず。
と、ここで雷雨に見舞われて、この日のトライは終了しました。
この日も攻略はならなかったものの、ゴールまであと2手というところまで迫りました。
サマータイムをその名のとおり夏の間に落とすことができそうだという期待を胸に下山しました!
7月17日(挑戦6日目)
そして迎えた記念すべき日。
蝉の鳴き声が聞こえはじめ、いよいよ夏が本番を迎えたこの日に、ぼくはついにサマータイムの攻略に成功いたしました!
結果として完登を果たしたわけですが、けっして万事順調だったわけではありません。
当日はまたしても天候面でアクシデントに見舞われました。
時期が時期なので仕方のないことですが、前日の深夜まではまたしても雨天。
とはいえ、朝には乾いているだろうと思い、午前2時には出発。
アプローチを終えて現地に到着したのは午前8時のことでしたが、予想に反してまだ岩肌が濡れていたのです。
なので、1時間ほど待機をしたのちに、ムーブの確認と壁の整備を兼ねて岩肌にとりつきました。
使用するホールドはすべて頭に入っているので、ムーブの入念な復習を行いつつ、チョークとブラシを用いて壁を手作業で乾かすことにしました。
その後、さらに少し待ってから練習開始。
体力の温存を意識しつつも、ルートの各パートごとにムーブをきっちりと確認しました。
もちろん、こうした作業や練習はテンションをかけてもらいながら(ロープで吊ってもらいながら)行ないます。ビレイヤーを務めてくださった方のご協力に感謝です。
練習の手応えはほぼ完璧。
正直言って、練習を終えた時点で勝利を確信しました。
が、練習が好調すぎたことで、逆に新たな障害が生じます。
自分で言うのもなんですが、ムーブの完成度があまりに高すぎたために、気持ちが必要以上に昂ってしまったのです。
過剰な興奮状態を自覚したぼくは、壁からいったん離れて待機。
本当は練習後にすぐさまトライを開始したかったのですが、こんな精神状態では確実にフォールすると判断しました。
いっしょにトライしていたご夫婦のクライマーたちと20分ほどの雑談を挟むことで、精神の安定を図ります。
最終的には練習から1時間以上のレストを挟むかたちになりました。
限界への挑戦は、心技体すべての面で高いクオリティを発揮する必要があります。会話に付き合ってくださったお二人には、心理的な面で本当に救われました。
気持ちも落ち着いたので、いよいよトライへと踏み切ります。
ところが、壁を登っている最中にもちょっとしたムーブのミスがありました。
とはいえ、しっかり整えたメンタルと、過去の経験、さらには十分に行なったサマータイムの研究と練習が功を奏して、このミスを登攀中に修正することに成功。
このささやかなミスを除けば、手・足・呼吸と、すべてが完璧でした。
ミスがあってもなお、落ちる気がしないほどの強い自信を抱いたまま登り続けることができました。
事前に分析した3つの核心部を乗り越え、ついに終了点のクリップを目指すだけとなりました。
完登を目前にすると、胸の奥に爆発寸前の喜びの圧力が感じられ、自然と頬がほころび、気が緩みそうになりましたが、「最後のクリップをかけるまで決して喜ぶな」との師匠の教えを思い出し、ラストの簡単な数手も全身全霊で処理します。
そして、ついに終了点にクリップ。
サマータイムの頂きに立ち上がり、こらえていた喜びを爆発させました!
お礼と予告
かくして、ぼくの挑戦は大成功のうちに終わりました。
お読みいただいたとおり、成功の道すがら、たくさんの人に支えられ、声援を送っていただきました。
いっしょに外岩を楽しんでいただいた方々には、この場を借りていまいちど深くお礼申し上げます!
貴重なお時間を割いてご同行くださったみなさん、本当にありがとうございました!
さて。
今回は後続の挑戦者の方たちにもそれなりに有益な情報をご提供したつもりですが、まだまだお伝えしきれていないことがたくさんあります。
そこで、次回はサマータイムの攻略方法を特集します!
あくまでぼくの個人的な攻略法にすぎませんが、興味のある方はぜひとも参考になさってください。
なお、バックナンバーはこちらから一覧できますので、ほかにも読んでみてください。
それでは、またお会いしましょう!
それでは、ガンバです!
提供:ボルダリングジムBolBol